カテゴリ: 登山塾【岳連山塾】web版

「引率登山」

引率登山では、「リスクを冒さない」という姿勢が必要であり、自主登山では多少の悪天候でも行動することがあるが、引率登山では、天候が悪ければ原則として登山を中止すべきである。
「生命の安全」を他の全てに優先させる。

引率リーダーの危機の予見と回避能力の解釈につ いて、主催者側には厳しい判決となり、この「安全性重視」の流れ が今後、主流になっていくものと考えられる。しかし、登山界の一 般的な見方は、未だに、参加者に「自己責任」を強調した従来型の 登山指導方法を提供している傾向があり、判決を境に、新たな指導 法の実施報告も見られないのが現状である。 
引率とは登山中の指導・誘導行為だ けでなく、講習会などにおけるクライミング や登山技術に関する実技指導も含まれる。 
「リーダーとは、登山の際に 生じる様々な危険に適切に対処し、登山を成 功に導くために、パーティーを指揮統率する 立場の者であり、リーダーは、コースの選択、 変更、休止、登山の中止などに関し、他のメ ンバーより強い決定権限を持つが、その反面 として危険の回避に関し、より高度な注意義 務を負うものである」 
引率リーダーの場合、 自主登山と異なる大きなポイントは、多く の場合、組織を背景とするため、講習会・研 修会などを主催する組織の理念がリスクへの 対応方法に大きな影響を与える。 
講習会への参加者が引き起こす様々な失敗 事例をデータ収集し、分析、整理した上で対 処法を考えておかないと、その場で問題点を 指摘し、指導することは不可能に近い。この ような学習上のリスクを想定することが、引 率リーダーと自主登山リーダーとの大きな違 いである。 
(2)危険な行為、講義内容への不服従とその 妨害行為への対処 
講習会・研修会には、様々な技術レベルの 受講者が参加するとともに、様々な性格の受 講者も参加する。その中には、危険な行為、 講義内容への不服従と妨害、わがままな行為 をする者も混じっている。このようなケース では、実技技術の指導中、毅然とした態度で、 注意、警告が必要となる。もし、危険行為を 行っているにもかかわらず、注意がなされな いと、事故発生の時点で主催者の責任が問わ れる可能性がある。 本件も、予め受講者に伝えておく必要があ るが、前述の技能レベルに応じたクラス編成 等の内容とは異なり、同意書の中に書き込ん でおく必要がある。 
講習会の開始時点で参加者には予想 されるリスクを伝え、既述した、わがままな 行為、危険行為への対処などを記した「同意 書」を示しておく必要がある。この同意書の 法的有効性については認められていないが、 十分に効果があると考えている。 
「あらかじめ本人へ危険 性があることを伝える」ことはリスクの軽減、 回避につながる行為のため、有効である。事 故関係者の間では、本人が、登山リスクを知っ た上で挑戦した結果の事故として、家族との 話し合いでも大きな効果があったという話が 聞かれる。 



・通常の登山では、ロープを使用しない箇所でも引率登山では使用する場合がある。

・自主登山では、下山時にヘッドランプを使用することは多いが、通常の引率登山では、そのような事態は避けなくてはならない。

     日の出         日の入り      行動可能時間
冬山 6:30~7:00   16:30ごろ         9時間
春山 5:00~6:00   17:30~18:30     10時間
夏山 4:30ごろ      18:30~19:00     11時間
秋山 6:30~7:00   16:30ごろ         9時間

1 集団登山の特徴 
(1)集団登山の種類 1学校登山とは、教育的価値により全員参加を前提とした登山経験 2募集登山には、 
・市町村民登山・・・親睦、レクリエーションを目的に行う ・エージェント(旅行会社、新聞社など)・・・登山需要に対して営利目的に行う 
(2)一般の登山者との違い 体力・技術・経験・年齢の差が大きい、または山を知らない初心者の集団 
隊としてのモラル・パワーは発揮されない 参加者の連帯感・相互扶助意識はゼロに等しい(特に募集登山
2 登山計画 
登山計画書は、行き先の警察署に必ず提出する。

(1)計画の進め方(一例) 1事前調査(下見)または前年度の計画を参考に概要を決定(山小屋、交通手段の確保) 2計画書の作成
3
事前準備・事前学習
4(
可能ならば)直前下見〈1~2週間〉
5
山行引率〈当日〉
6
反省会 

5引率組織 
・引率責任者と指揮系統をはっきりさせる。 
・引率者数は、学校のような一律の集団では10~15人に1人くらいでもよい。 6留守部隊 
・万一の時にあわてぬよう、留守部隊(留守本部、現地応援、報道対応等)の分担を明 確にしておき、緊急時の連絡体制(連絡網)を作成しておく。 
女子生徒が参加する場合は、引率教員に女性教員を加えて、個に応じた安全指導等に十分配慮する。

登山期間・コース・日程について
(1) 多人数での行動は、予想以上に時間がかかるので、日程には十分な時間的余裕をもつように計画する。
(2) 生徒の体力差を考慮し、体力の低い生徒に十分配慮して計画を立てる。
(3) 実施期間は3泊4日以内とする。
3 出発前の準備について
(1) 引率教員は、現地の状況・コース・日程・安全対策等について事前の打ち合わせを十分行うとともに、参加生徒にもその内容を周知する。
特に、防寒具、雨具、着替え、予備食糧等の装備、身体にあったザックや登山靴の準備などを適切に指導する。
(2) 天候の変化、傷病の発生等不測の事態を想定し、事前に退避コース、班の編制替え、引率教員の役割分担の変更等について共通理解を図るとともに、具体的な計画立案を行う。
特に次の点について対策を立てる。
・登山実施中に学校との連絡が円滑に取れるよう工夫する。
・現地の医療施設について調査し、緊急の場合の連絡方法や搬送方法について確認しておく。
1ゆとりある引率とは 
・引率者間で、参加者の情報共有が図られている。 ・行動時間、行動範囲、スケジュールにゆとりがある。 ・引率者の数と質が十分である(数だけでなく、質が重要) 

2(4)団体装備(引率者は、不要と思っても持って行かねばならない物がある) 救急医薬品(テーピングテープ、ブドウ糖も加えたい)
通信機器 ★携帯電話は場所によって使えない
ロープ スリング カラビナ ツェルト(女子のトイレ時にも利用できる) ストック(伸縮式が望ましい) ナイフ 小型ペンチ、針金など 

山岳保険は、遭難した場合の捜索や救助費用などが多額になる場合が予想されるので、任意ではあるが加入について配慮する。
★装備の所持者を確認しておき、いざというときすぐに使えるようにしておく 
(5)下見 下見の観点 

・コースタイムの見積もり
・分岐点や不明瞭な部分の確認
・危険箇所の点検と通過方法の工夫
・集合や大休憩場所の選定
・水場やトイレの適地
・展望や自然観察適地
・緊急避難地、エスケープルート(逃げ道) ・山小屋の使用について(特に学校登山では、使用上の注意点、部屋数、食事のとり方、 

水筒の補給方法、予定日の混み具合、同宿校等の確認) ・体調の悪い参加者の引き返し判断地点の確認 ・通信手段の電波状況等の確認 
4 引率技術 

(1)出発準備 1人員確認・・・・・人数だけでなく、名簿で確認(事前にリストをつくっておく) 2健康状態の確認・・風邪、頭痛、腹痛等の体調、寝不足でないか、朝食を食べたか等 3装備の確認・・・・雨具等重大な忘れ物をした者はいないか 4行動確認・・・・・今日の予定を確認(概念図、比高断面図などを利用する) 5隊列の決定・・・・体力やその日の体調により、遅くなりそうな者を前に出す 6トイレの確認・・・出発前に済ませる
7
準備体操(ストレッチ)
8
靴ひも、パッキングの確認 

(2)歩行技術 1隊列(順番
・先頭(引率者、ペースメーカー)体力的に弱い人→次に弱い人 ~~~~~最後尾(引率者、リーダー

2ペース
・先頭(ペースメーカー)のペースによって登山の善し悪しが決定する。 ・歩き始めはとにかくゆっくり。 ・行動予定時間に縛られず、体力的に一番弱い人を観察しながらその人のペースに合わ 

せるのが、結果的に早く到着することになる。 ・汗をかかないくらい「ゆっくり」歩くと、バテる人を出さない。 ・「ゆっくり」とは=1時間に標高300m位のペース(学校集団登山では、200m) ・下りこそしなやかにゆっくりと(登りに比べて事故が多く膝や足を痛めることが多い) 
★要事前指導 
・落石や危険の防止のためとともに、自然保護のためにも登山道以外を通らない。 
・近道をしない(直登などのコースはかえって疲れるし滑る) 
・浮き石に乗らないようにするのは勿論、落石を起こしてしまったら「落石(または「ラ ークッ」)と叫ぶ。 

7危険箇所の通過
・危険箇所は一人ずつ通過する。 ・ハシゴの下りでは「後ろ向き」で、手はステップを持ち、足も確実にステップに乗せる 

よう指示をする。 ・鎖やロープが設置された箇所では、鎖やロープにもたれかからず、補助的に使うことを 
指示する。 ・岩場がある場合、不安な人には事前に休憩などの時に近くの岩にとりついて三点支持の 
訓練をしておくのもよい。 ・雪渓の通過が不安な場合は、迷わずフィックスロープを張る。 
(3)休憩の仕方 1時間 
・「○分歩いたら△分休み」ばかりにとらわれず、広いスペースや景色の良い場所など休 めるところで休まないと、ただ登るだけの登山になってしまう。 
・大きな集団では、間があいても笛やトランシーバーで連絡をとり合って一斉に休む( を詰めると後ろは着いたらすぐ出発になってしまう。そこで休めばまた間があくので同 じこと) 

2場所
・とにかく安全な場所(上方からの落石がない、人やザックが落ちない)で休む。 ・ザックは山側におろし、人も山を背に座る。 ・雪渓などでは、落石や雪崩の心配があるので、一人は上方を向いて座り監視している。 

3健康状態の確認 ・ザックも開かずただ休んでいる人には声をかけた方がよい。 ・天候変化、体調に合わせて、衣類を早めに着る。 

4栄養分の補給
・腹が減らないうちに補給する。 ・腹が減ってからでは、食べたものがエネルギーになるまでにバテてしまう。 ・エネルギー源になるものは、糖質の多い甘い物。 ・筋肉疲労に役立つ物は、塩分(梅干しなど)やカリウムの多い物(バナナなど) 

5水分の補給
・のどの渇きを覚えないうちに飲む。 ・昔は「汗になって疲れる」と言われたが、今は汗で失われた分は補給するのが常識。 ・体重1kgあたり、1時間行動すると、5cc(5ml)の水分が失われる。つまり、 

体重50kgの人が6時間行動すると、5cc×50kg×6時間=1500ccとなり、 1.5l(500ccのペットボトル3本分)の水分を補給しなければならない。 
・塩分の補給も兼ねて、2倍程度に薄めたスポーツ飲料を利用すると、吸収もはやい。 
(4)ばてた人の対処 1糖分を補給するのがもっとも良い。ブドウ糖が特効薬だが、チョコレートやあんパンな 
ど甘い物をとる 2“足がつった

 『フリークライミング』概念
1.フリークライミングとは
フリークライミングで登る=自然の岩やホールドだけを利用して、自分の身体の
 みを使って登ること
フリークライミングをする=登るための手段をフリークライミングに絞って、
 それを目的として登る行為

2.山岳登山としてのクライミング
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フリークライミングで登るとは「前進する手段として道具を使わない」ということ
       墜落したときの安全確保のための道具(岩に打ちつけられたボルトやピン、クラ
イミングロープやハーネスなど)は必ず必要 *クライミングシステム技術の習得
 
3.フリークライミングの原則  『レッジ to レッジ』
安定した取り付き《スタート》~両手を離して立てる安定したレッジ《ゴール
またはトップ》までフリークライミングで登る

4.歴史
「フリークライミング」を目的として行われるようになったのは1950年代のヨセミテ
アレン・ステック、ジョン・サラテ、ロイヤル・ロビンス、イヴォン・シュイナード、
トム・フロストなどが、ボルトをなるべく排除したクリーンなスタイルでクライミングを
行い、麻のロープを腰に巻くような古い装備で、既に5.10代のルートや、長大かつ冒険的
なルートが拓かれた。その後、フリークライミングの「グレードを押し上げる」という意
味での中心はフランスに移る。良質な石灰岩の岩場に恵まれ、ヨセミテの「ルートは下か
ら開拓する」というグラウンド・アップの原則を排除して、岩場上部から懸垂下降しての
ボルト打設を行うフレンチ・スタイルは、グレードを押し上げた。さらにスポーツとして
の発展を目指す、ジャン・クロード・ドロワイエは残置ピトンなどの人工物をホールド
(手懸かり)やスタンス(足場)として使用することをやめるよう提唱し、次第に広く受
け入れられるようになり、フリークライミングとは「自然の造形のみをホールドやスタン
スにして登る」ということが一般化され、あるがままを登り、可能な限りクリーンでシン
プルなスタイルを目指すという原則が認知されてきた。
日本では、1970年代末にヨセミテを訪れそこでフリークライミングの洗礼を受けた
本人クライマーたちによって、国内においてもこのスタイルが実践された。1980年代
に入ると奥秩父の小川山や瑞牆山などの花崗岩で、フリークライミングルートが開拓され
る。特に小川山はヨセミテに似た環境で、そおの後国内における代表的エリアとして発展
した。と同時に石灰岩エリアでのフレンチスタイルも積極的に行われ、国内でのフリーク
ライミングも確立していった。現在は人工壁や競技クライミング、ボルダリング、ジムや
トレーニングシステムの確立などあってグレードはさらにアップし、またグローバル化・
大衆化、低年齢化も進んでいる。

5.さまざまな完登の仕方
オンサイト…オンサイトという言葉の意味は初見ということ。登ろうとする岩の
 ルートを決めたら、そのルートの事前情報を登った人間から得てはいけない。も
   ちろん、事前に他人の登りを見ることも許されない。そのルートをオンサイトす
 るチャンスは、人生一回しかないということ。
レッドポイント…2回目以上のトライで完登すること。

★ クライマーの目標 
    すべてのクライマーは、すべてのクライミングで、シンプルかつクリーンなスタイルでの
    フリークライミングを目指す。

フリークライミング グレード比較表
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2015年現在 世界最難グレード
    ボルダリング  Burden of Dreams (V17) by Nalle Hukkataival
    ルート     La Dura Dura(9b+ 5.15c)  by Chris Sharma Adam Ondra 

山岳指導員研修会 山岳技術研修会(無雪期)

○ 目的   山岳指導員の育成及び会員の登山技術習得
○ 主催  滋賀県山岳連盟  
○ 主管  滋賀県山岳連盟 指導委員会
○ 期日   201694日(日)9001500
○ 会場  大津市北小松 比良げんき村 宿泊棟(旧山岳センターー)
○ 講師  主任講師 大越久嘉 (山岳上級指導員 アルパインクライミング)
        その他 指導・技術委員会
○ 研修内容 「山岳での危急時対応についての考察・研修
09:30  開講式~オリエンテーション
09:45  研修1 「危急時対応の心得・準備」(講師の講義)
10:30      休憩
10:40  研修2 レポート・地形図研修
12:00  昼食・休憩
12:45  研修3 グループ研修~ディスカッション
14:40    まとめ
14:50  閉講式~解散

研修レジメ

研修1 「危急時対応の心得・準備」

自然界の中の人間(自分)
自然の中で人間は・・・弱い
濁った水が飲めない・食料調達 ができない・裸で過ごせない
裸足で歩けない・鼻、目、耳が効かない・方向感覚がない
身体能力が乏しい・精神脆弱(個人となった時)など 

「岳人・クライマーは、リスクの多い自然界に分け入る冒険者」
      (自ら突破口を見開いて、目的達成に挑む)
身体能力向上・リスク分析 = 冒険者 ≠ 無謀行

リスク
客観的危険  ←  リンク  →  主観的危険

                 ・気温・風雨・降雪・吹雪・雪崩                 ・体温不調・凍傷・凍死・日焼け
                 ・熱射 ・ ホワイトアウト・雷                        ・雪盲・現在位置ロスト

                 ・落石・落氷・雪崩 ・溺れる                      ・負傷・窒息・
                 ・土石流
                       
                 ・地形(急斜面、傾斜、深い谷、滝)           ・転滑落・現在位置ロスト
                 ・クレパス・深山・

                 ・動植物の攻撃・疾病                             ・中毒・負傷・かぶれ・不全症
                                                                            ・バテる・脱水・エネルギー不足

                 ・その他                                                ・無知・無謀

危急時対応の原則
○  後遺症無き早期社会復帰
○  その場の感傷より冷静な判断
○  二次遭難事故の防止
○  社会インフラへの搬送(通信手段の確保)

       リスクへの準備
○  自然科学への関心
○  技術・知識習得に向けての研鑽(研修+実地訓練)
○  もしも・・・を考慮した計画、実行

研修2  レポート   氏名

○  あなたの主な山岳活動は何でしょうか?(複数書き込み)



○  あなたにとってリスクの多いその活動において、やり続ける意義は何でしょうか?



○  リスク回避・対応のための対策をお聞かせください。



○  危険な目にあった体験や経験があればお聞かせください。








○  あなたの山岳リスクに対する考えや今後の対応についてお聞かせください。








○  今後目標とする山岳活動をお聞かせください。


○  滋賀岳連や指導委員会に対するご要望をお聞かせください。



ありがとうございました

平成26年度(2014年度)山岳指導員研修会 兼 山岳技術研修会(積雪期)

 研修レジメ


【研修資料 「引率登山の実践」】
対象者 児童学生(未成年者)及び登山未経験者や登山技術未熟者(成人を含む)高齢者など
目的 自然・山との出会いを提供し、体験する幸せや喜びを与え、それらの夢と希望を確実に

楽しく実現可能にする。単に山を案内したり、登山技術の提供者ではない。
登山することの楽しさや喜びを提供し人間関係にも目を向けて、登山を成功させる
ことが引率者には求められる
集団登山の特徴

 (1)集団登山の種類

1.学校登山とは、教育的価値により全員参加を前提とした登山経験

 2.募集登山には、

            ・市町村民登山・・・親睦、レクリエーションを目的に行う
 ・エージェント(旅行会社、新聞社など)...登山需要に対して営利目的に行う

 (2)一般の登山者との違い

○体力・技術・経験・年齢の差が大きい、または山を知らない初心者の集団 

○隊としてのモラル・パワーは発揮されない

  参加者の連帯感・相互扶助意識はゼロに等しい(特に募集登山)

役割 
*引率登山では、「リスクを冒さない」という姿勢が必要であり、自主登山では多少の悪天

 候でも 行動することがあるが、引率登山では、天候が悪ければ原則として登山を中止す

 べきである。「生命の安全」を他の全てに優先させる。
1.登山パーティの構成及び人員、登山能力の把握 
2.目的とする登山コースの状況、危険箇所、気象状況、地形など十分把握した上で、危急時

 に備えて 適切な体制を整えておく

 3.登山者の心身の状況をよく観察し適切な指導と余裕のある行動を心がける。
 4.行動中、考えられるあらゆる事態を予測、認識しそれらをもとに適切に判断する

 5.危険を敏感に察知し、人命を守るために、あらゆる努力を払うこと

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登山者に意欲と目的意識をもたせる指導

“集団行動”とか“苦しさを乗り越える”というような精神主義を第一目的にするのはよくな
 い。
登山者にとって、ある程度“冒険的要素”を意識させてやることが、登山の魅力になり自ら

 判断して安全を確保することにつながる(「危険だ」という意識づけ でなく、「未知の世

 界へ入る」というイメージ)

*引率者の姿勢
・引率者が嫌々引率するのでは登山者にとって楽しい登山になるはずがない。

・引率者が山の楽しさを知るとともに、参加者に感動を与える“演出家”に徹する


形態 1.志向別
・レジャー志向(心理的開放感)

・健康志向(運動スポーツ)

・能力志向(目的達成登山) 

2.ジャンル別

・アルパイン(クライミング)

・一般登山(ハイキング~)
計画

 (1)多人数での行動は、予想以上に時間がかかるので、日程には十分な時間的余裕をもつよ
うに計画する

(2)体力差を考慮し、体力の低い人に十分配慮して計画を立てる
(3)実施期間は3泊4日以内とする
(4) 通常の登山では、ロープを使用しない箇所でも引率登山では使用する場合がある

 (5)自主登山では、下山時にヘッドランプを使用することは多いが、通常の引率登山では

そのような 事態は避けなくてはならない

*計画の進め方(一例)

1.事前調査(下見)または前年度の計画を参考に概要を決定 (山小屋、交通手段の確保)
2.計画書の作成
3.事前準備・事前学習

4.直前下見〈1~2週間〉
 

5.山行引率〈当日〉
 

6.反省会

組織 
・引率責任者と指揮系統をはっきりさせる 
・引率者数は、学校のような一律の集団では10~15人に1人くらい 
・女子生徒が参加する場合は、引率に女性を加えて個に応じた安全指導等に十分配慮する 

・留守部隊

万一の時にあわてぬよう留守部隊(留守本部、現地応援、報道対応等)の分担を明確に

しておき、緊急時の連絡体制(連絡網)を作成

出発前
 (1)引率教員は、現地の状況・コース・日程・安全対策等について事前の打ち合わせを十

行うとともに、 参加者にもその内容を周知する。特に、防寒具、雨具、着替え、

    予備食糧等の装備、身体にあった ザックや登山靴の準備などを適切に指導する

 (2)天候の変化、傷病の発生等不測の事態を想定し、事前に退避コース、班の編制替え、

率者の役割 分担の変更等について共通理解を図るとともに、具体的な計画立案を

行う
   	 特に次の点について対策を立てる
・登山実施中に関係者との連絡が円滑に取れるよう工夫する。 
・現地の医療施設について調査し緊急の場合の連絡方法や搬送方法について確認しておく
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ゆとりある引率とは

・引率者間で、参加者の情報共有が図られている 
・行動時間、行動範囲、スケジュールにゆとりがある。 

・引率者の数と質が十分である(数だけでなく、質が重要)

団体装備(引率者は、不要と思っても持って行かねばならない物がある)

  •   ・救急医薬品(テーピングテープ、ブドウ糖も加えたい)

  •   ・笛 ・通信機器(携帯電話は場所によって使えない)

  •   ・ロープ ・スリング ・カラビナ ・ツェルト(女子のトイレ時にも利用できる)

     ・ストック(伸縮式が望ましい) ・ナイフ ・小型ペンチ、針金など

*山岳保険は、遭難した場合の捜索や救助費用などが多額になる場合が予想されるので、
 意ではあるが加入について配慮する

*装備の所持者を確認しておき、いざというときすぐに使えるようにしておく

下見

・コースタイムの見積もり
・分岐点や不明瞭な部分の確認

・危険箇所の点検と通過方法の工夫
・集合や大休憩場所の選定
・水場やトイレの適地
・展望や自然観察適地
・緊急避難地、エスケープルート(逃げ道)

 ・山小屋の使用について

(特に学校登山では、使用上の注意点、部屋数、食事のとり方、 水筒の補給方法、

予定日の混み具合、同宿校等の確認)

・体調の悪い参加者の引き返し判断地点の確認
	・通信手段の電波状況等の確認
引率 
 出発準備
1.人員確認・・・・・人数だけでなく、名簿で確認(事前にリストをつくっておく) 

2.健康状態の確認・・風邪、頭痛、腹痛等の体調、寝不足でないか、朝食を食べたか等

3.装備の確認・・・・雨具等重大な忘れ物をした者はいないか
 4.行動確認・・・・・今日の予定を確認(概念図、比高断面図などを利用する) 
5.隊列の決定・・・・体力やその日の体調により、遅くなりそうな者を前に出す

 6.トイレの確認・・・出発前に済ませる

7.準備体操(ストレッチ)

8.靴ひも、パッキングの確認歩行技術

隊列(順番)・先頭(引率者、ペースメーカー)→体力的に弱い人

次に弱い人 ~~~~~最後尾(引率者、リーダー)

 ペース
・先頭(ペースメーカー)のペースによって登山の善し悪しが決定する 

・歩き始めはとにかくゆっくり 
・行動予定時間に縛られず、体力的に一番弱い人を観察しながらその人のペースに合わせ
のが、結果的に早く到着することになる 
・汗をかかないくらい「ゆっくり」歩くと、バテる人を出さない 
・「ゆっくり」とは=1時間に標高300m位のペース(学校集団登山では、200m位) 

・下りこそしなやかにゆっくりと(登りに比べて事故が多く膝や足を痛めることが多い)

★要事前指導
・落石や危険の防止のためとともに、自然保護のためにも登山道以外を通らない 
・近道をしない(直登などのコースはかえって疲れるし滑る) 
・浮き石に乗らないようにするのは勿論、落石を起こしてしまったら「落石(または

「ラークッ」) と叫ぶ

 危険箇所の通過
 

・危険箇所は一人ずつ通過する

・ハシゴの下りでは「後ろ向き」で、手はステップを持ち、足も確実にステップに乗せる

う指示・鎖やロープが設置された箇所では、鎖やロープにもたれかからず、補助

的に使うことを指示 
・岩場がある場合、不安な人には事前に休憩などの時に近くの岩にとりついて三点支持の
練をしておくのもよい
・雪渓の通過が不安な場合は、迷わずフィックスロープを張る

 休憩の仕方

1.時間
・「○分歩いたら△分休み」ばかりにとらわれず、広いスペースや景色の良い場所
休めるところで休まないと、ただ登るだけの登山になってしまう 
・大きな集団では、間があいても笛やトランシーバーで連絡をとり合って一斉に
休む 
(間を詰めると後ろは着いたらすぐ出発になってしまう。そこで休めばまた間

があくので 同じこと)

2.場所
・とにかく安全な場所(上方からの落石がない、人やザックが落ちない) 

・ザックは山側におろし、人も山を背に座る

 ・雪渓などでは落石や雪崩の心配があるので一人は上方を向いて座り監視している

3.健康状態の確認 
・ザックも開かずただ休んでいる人には声をかけた方がよい

 ・天候変化、体調に合わせて、衣類を早めに着る

4.栄養分の補給
 

・腹が減らないうちに補給する

・腹が減ってからでは、食べたものがエネルギーになるまでにバテてしまう

 ・エネルギー源になるものは、糖質の多い甘い物・筋肉疲労に役立つ物は、塩分(梅

しなど)やカリウムの多い物(バナナなど)

5.水分の補給
・のどの渇きを覚えないうちに飲む 

・昔は「汗になって疲れる」と言われたが今は汗で失われた分は補給するのが常識 
・体重1kgあたり、1時間行動すると、5cc(5ml)の水分が失われる。
つまり、体重50kg人が6時間行動すると、5cc×50kg×6時間=1500ccとなり、
   1.5L(500ccのペットボトル3本分)の水分を補給しなければならない 

・塩分の補給も兼ねて、2倍程度に薄めたスポーツ飲料を利用すると吸収も早い

ばてた人の対処

1.糖分を補給するのがもっとも良い。ブドウ糖が特効薬だが、チョコレートやあん

     パなど 甘い物をとる

2.“足がつった”などには、塩分(梅干しが特効薬とのこと)やカリウム(バナナなど)を
     補する 

★予防のために、水分とともに塩分を摂る

隊の分散について 

・引率者数が十分確保できている場合以外、隊を分散させてはならない

危急時(ケガ・事故)の対策

1.引率者の注意義務
・危険に対する予知義務・・・ 前もってあらゆる可能性を考えその対策を立ててお
く 
・危険回避義務・・・・・・・ アクシデントや事故が起きてしまったとき、それ以
の事故が起こらないように努力する 
・救助義務・・・・・・・・・ 万一事故の場合は負傷者を救助しなければならない

非常時対策

・事故者の応急処置(救急法、ツェルト等による防寒等) 
・搬送方法(ロープ・ザック等を使った搬送→実技研修で) 

・連絡方法(留守本部、家族、警察への救助要請)

★携帯電話は万能とは言えない 
・ヘリコプターが到着の場合、場所を知らせるサインやヤッケなどを片手に持って

 円を描くように振る(救助要請でない場合、むやみに手を振らない) 乗務員が確認

 できる位置まで近づいたらヤッケなどを上下に振る 

・隊全体の把握(安全な場所への避難、パニックの防止、以後の行動について徹底)

		■事故発生後の対応事例   			 事故の発生と共に、取り急ぎできる処置・手続きは、
1) 現場での安全性確認と避難 ( 事故の拡大防止) 

2) 状況確認
3) 応急処置
4) 救助要請(消防、警察)の連絡

5) 搬送(ヘリ/救急車)
6) 現場責任者の判断で、参加者へ講習会 の継続、延長、中止、連絡法などを伝える

 なお、搬送が後になる場合もあり、また、 冬期訓練では参加者と待機、さらに救

される場合 もある。

7) 主催者の本部に連絡(応援の要請など)
8) 参加者の家族等に連絡。この際、直ち に対応が可能なら主催者側の管理者が望ま

く、現状での 事態を急ぎ把握・整理した上で連絡すること。

9) 事故の規模に応じた対策本部を立ち上げ、情報の一元管理をする
10) 家族等の対応・連絡係を派遣
11) マスコミへの経過説明などである。その後、謝罪、家族へ誠意ある対応、

    山岳保問題などの 問題に配慮しながら対応していく

■登山の基礎技術・知識
  山の環境
1、3000m級の山では、酸素量が平地の3分の2になる
 2、8m登ると、気圧は1hPa下がる(100mで12hPa下がる) 
3、気温は、100m登ると約0.6°C下がる
 4、風が吹くと身体の熱が奪われ体感温度が下がる(風速1mで1°C下がる低体温症の危険) 

5、紫外線が平地より強い(増える) 直射日光が強い

6、日照時間

            	日の出         日の入り        行動可能時間       冬山 6:30~7:00   16:30ごろ         9時間       春山 5:00~6:00   17:30~18:30     10時間       夏山 4:30ごろ      18:30~19:00     11時間       秋山 6:30~7:00   16:30ごろ         9時間

山で起きやすい病気・怪我

 1.高山病

・高所の低圧低酸素状態故に起きる、寒気・頭痛

・吐き気・嘔吐等・酸素吸入も良いが、長時間の吸入は期待できない(携帯酸素ボン

程度では)ので、 深呼吸を続けさせる

★息をたくさん吐くことを意識させると良い 
・具合が悪いからといって横になって眠らせるのは良くない(呼吸数が減り、酸素吸

量が 低下する)

・頭痛薬は効果的であるが風邪薬は睡眠効果があるものがあり不適 

・重いときは下山させると治る

2.過換気症候群 
・不安や緊張などのストレスから空気を吸いすぎて起きる 

・呼吸が速くなり手足がしびれたようになる

3.高所肺水腫
・からせき(ラ音)、呼吸困難、唇が紫(チアノーゼ)、熱はそれほど高くない
 ・肺胞に体液がたまり呼吸ができない状態なので、夜であってもすぐに下山させ

医者へ 行かねばならない

4.風邪・腹痛(下痢・便秘) 

・環境が変わるので単なる風邪ということも多い・薬を飲ませ、休ませる

5.熱中症
・高温多湿での長時間運動による脱水状態によって起きる

 ・日陰の風通しの良い涼しいところに移動し、0.1%の食塩水を飲ませたり、あら

ゆる方法を とったりして体を冷やす

 ・熱射病では汗が急に止まって体温が39°C以上に上がり、顔が真っ赤になる 

・重い場合は生命の危機になる

6.低体温症
・夏でも雨に打たれ強風にさらされれば低体温症になる 

・着る物(綿でない素材、雨具)やツェルトなどの装備で予防に心がける 
・処置としては、暖かい部屋で濡れた物を着替えさせ、意識がはっきりしていると
きは温かいものを飲ませる

・意識がないときに物を与えてはならない
脳:35°Cを過ぎると会話に支障を来す

33°C で意識が薄れて、30°Cで意識は消失する

*山ではここまで。これ以前に回復処置を取らなけ 心臓:心臓は寒冷に弱い。

 心臓のリズムをつくる ペースメーカーが遅くなり心拍数が減少、心臓が 送り出
す一回の血液の量も減少する
 33°C では心房の収縮が不規則になり、心房細動を起こす。心臓の空回りのような

 もの 血液:身体に酸素を運ぶヘモグロビンは、低温にな ると酸素を遊離できずに

 酸素減少してしまう。肝臓の機能が低温のために低下し、酸の排泄に支障を来し、
  血液は酸性になる。これを「アシドーシス」 という。低温下でのアシドーシスは
 あまり問題ではないが、重度になると意識に支障を来たす

7.キズ・小さなキズは消毒ガーゼ付き絆創膏、大きなキズは止血と消毒

8.骨折
 

・副木をあてて固定する。

		・寒気を訴えることが多いので、温かい飲み物などを与え、全身を保温し病院へ

9.まめや靴擦れ 
・事前の予防として大型のガーゼ付き絆創膏などを貼っておく
 ・靴紐をしっかり締める 

・スポーツソックスは、足首に靴擦れを起こしやすい

10.筋肉けいれん 
・筋肉けいれんの原因は4つある
ア. 運動により温められた筋肉が風など外気によって急激に冷やされた場合→
  保温し、ストレッチやマッサージをする
イ. 炭酸ガス不足による場合 →吐いた息を再び吸うことで血液中の炭酸ガス濃
度を上げる 

ウ. 汗をかいたための塩分(ナトリウム)不足 →食塩の補給(梅干しなど)
エ. カリウム不足 →バナナなど果物類によるカリウムの補給

11.次にあげる4つは、皮下の組織が損傷して痛み腫れを起こすので、いかに早く冷やす 
  かがポイントになる。

・打撲・・・・ 冷やす
・ねんざ・・・ 冷やして圧迫しテーピングによる固定 ストックを使って負担を軽く 

・脱臼・・・・ ねんざが重傷となり、関節がズレる 冷湿布後病院へ 

・肉離れ・・・ 患部を冷やし固定する

12.その他 
・喘息等の症状がある者がいる場合、山小屋の狭い部屋等で防虫スプレーを使用す

 る際には 気をつけたい 

・登山当日の朝食は、油っぽいドーナツなどは避けたほうがよい(胃腸へのの負担
 軽減) 
・小屋に着いたら、着替えをするようにしたい。下着が乾いている場合でも、衣類

 につ

【岳連山塾】14 研修「ロープワーク実践編」 2014.11.30 大津市皇子山公園
    目的:セルフレスキュー シュミレーションを通してロープワークを習得する

⚪︎想定
・2名でマルチピッチのクライミング ロープは10.0mmダイナミックロープ1本
・登山道を登ってクライミングルートに取り付く(テラス下は急斜面の岩稜帯)
・1ピッチ目テラスでリーダーを確保 リーダー クライミングスタート 
・リーダー 1.5m上にある1本目のランニングビレイをセット中に滑落
・リーダー アンカーポイントを通り越して落下率2で3.5m落下
・ビレイヤー 下方にロープに引きづられて確保 墜落を止める
・ビレイヤー アンカーにテンションかかった状態 身動きとれず
・リーダー 落下時に体を岩壁に激突 呼びかけに応えない
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⚪︎セルフレスキュー開始
自己脱出
 1.ビレイデバイスを仮固定確保 カラビナをビレイループに取り付け、
  ロープを折り返してメインロープにミュールノット
 2.ロープにフリクションヒッチ(*1)してスリングで延長してアンカーに仮固定  
  (*2 いってこいorマリナーヒッチ)
 3.ビレイテンションを抜いて、フリクションヒッチ手前でノットを作りバックアップとする
 4.ビレイ解除して自己脱出完了
負傷者引き上げ(5:1システム)
 1.アンカーにカラビナセット メインロープを通す
 2.要救助者(以下要救)側のロープにロープスリングでオートブロック(*3)し、アンカーカラビナにセット
 3.ビレイ側のロープにノットしてバックアップ
 4.(*1)のバックアップノットを解除
 5.(*2)をゆっくり解除して(*3)にテンションかけてロープを固定
 6.(*1)を下方にずらしてカラビナをセット
ビレイロープを折り返す(3:1システム)
 7.引き上げ
 8.上がらない場合は5:1システムにする(現地説明にて)
 9.引ロープにフリクションヒッチをセットしハーネスに連結する
 10.カウンターウェイトで引き上げ、要救確保
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⚪︎蘇生応急処置
  山中での応急処置研修(眞鍋氏・薮内氏による講習)
⚪︎一般社会(社会インフラ)までの搬送
・背負い搬送(協力者複数人が加わってロープ確保しながら)
 1.ザックと上着を使った背負子を作成
 2.ショートロープ確保で搬送の実施研修

レスキュー;⭐︎要救助者の後遺症なき早期社会復帰 ⭐︎二次遭難事故を絶対に起こさない
・事故発生時に慌てない、できれば食事飲水してエネルギー補給する
・協力者を求めチームを作り、状況を掌握してレスキュー計画立案、役割分担する
・救護者は互いに目的を共有(フォローワーシップ・リーダーシップ)

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